Kαin interview Part.1

■Kαinのたった一枚のアルバム『Paradiselost』に込められたもの

――D=SIRE、JILS、そしてKαinと、いろいろな形で活動されてきた中で、幸也さんの中でKαinの存在とはどういうものなんでしょうか。

「D=SIREを始めた20歳そこそこのときに、今と同じぐらいの経験や知識やお金があったら、こういうバンドがやりたかったというバンドを今やっているのがKαinですね。それが一番簡単な説明だと思います。こういうのがやりたかったんだというバンドなんです」

――結成した2007年7月の時点で、もうそういうことを考えていたんですか。

「JILSが終わる頃は30代後半に差し掛かり始めていて、そろそろ本当にやりたいことをやらないといけないという気持ちだったんですね。理由としてはふたつあって。ひとつは、JILSが解散する前年の年末に自分のレーベルのKreisが10周年を迎えて、ひとつの区切りになったことですね。もうひとつは、その区切りのイベントの前に喉のポリープを手術して、一ヶ月ぐらい歌えない時期があったんです。それまではヴォーカルであることに執着していないと思っていたんですけど、もうライヴができないのかもと思うとわりとショックで。だから、やれるうちにやらないとっていう気持ちが強く出てきたんです。本当にこれをやって終わりたいというようなことに向かわないとダメなんじゃないかと思ったのがきっかけでした」

――それで本当に目指す形としてKαinがスタートするわけですね。そこで大事にしたかったのは、音楽性なのか世界観なのか、それとも精神性みたいなもの?

「抽象的ですけど、そのとき僕が言ったのは、もっと絞りたいということでしたね。JILSは曲調も服装もどんどん幅が広がっていってたんですね。今後やりたいのは、メイクも服装も曲調もステージセットも統一感があって意味があるもの。だから、音楽だけの話ではないんですね」

――7月にKαinがスタートして、11月にはもうフルアルバム『Paradiselost』をリリースしていますよね。

「7月から制作をして、11月に発売しました。いきなりフルアルバムを作るのは思ったより大変でしたね。でも、シングルではダメだという話になったんです。こういう世界観を提示したいというのを見せようと思ったら、アルバムぐらいのボリュームがいるし、ライヴもワンマンのほうがいいんじゃないかと。」

――これまでのバンドと、明らかにKαinは違うんだと言えるところはどういうところなんですか。

「D=SIREの中にもJILSの中にも、Kαinの要素はあるんですよ。特にJILSは、すごくダウナーでヘヴィな曲もあれば、すごいアッパーでロックンロールな曲もあったじゃないですか。それをある意味JILSは売りにしてたけれど、本来自分がやりたかったのは、ダウナーでヘヴィな感じのものなんですね。僕はもともとニューウェーブとかが好きでバンドを始めているから。Kαinは新しいものをやっているというより、D=SIREからもJILSからも削ぎ落として、自分の好きな部分を抽出している感じです」

――Kαinの音楽や世界は、ヘヴィでダウナーという言葉からイメージされがちなものよりも、荘厳な感じとか構築美とか様式美とかが印象的です。

「『Paradiselost』というアルバムは旧約聖書の創世記をモチーフにして、その物語の進行どおりに曲順が進んでいく作りになっているんです。人生最初のバンドがKαinだとして、そのときに今ぐらいの知識とスキルとお金も(笑)、あるとしてどうする?っていうところまで考えたときに、一番最初まで戻ろうと思って、人間としての原点である創世記から始めたんですね」

――十字架やステンドグラスなど、キリスト教にまつわるモチーフはよく使うものですよね。

「D=SIREもJILSもライヴでそういうモチーフは使っていたし、よりそこに特化した感じだと思います」

――作品としては、聴いて元気になるとか、そういうものではないですよね。

「どっちかと言うと、家でじっとひとりで聴く感じのアルバムだと思います」

――ライヴのことよりも、ひとつの作品としてどうするかという点を重視したんですか。

「ちょっとビートロックに寄った曲や、8ビートでメロディアスな曲を織り交ぜると、JILSと区別がつかなくなる可能性が高くなると思ったので、『Paradiselost』では、そこじゃない部分をひとつのかたまりとして見せたかったんです。だから、そういう曲はなるべく減らして、雰囲気とか世界観が伝わる曲でアルバムを構成しました」

――幸也さんというと、ビートロックという印象も強いですけどね。

「8ビートでメロディアスな曲を作るのが、ソングライターとして得意なんだと思うんですよ。それを求められてる実感もあるし、そこは自分の得意技のひとつでもあるんだけど、それ一辺倒ではしんどいから、そこじゃない部分も磨いていきたいんですよね。引き出しがいっぱいある感じなんですよ。8ビートのメロディアスな曲、バラード、16(ビート)でこういう感じとか、そういう引き出しがあって、それぞれの中で一番いい曲を自分の中で更新していきたいんですね。D=SIREに「BLUExxx」「追憶」という曲があって、その系譜の上に、JILSの「Innocent Cry」があって、今Kαinで「証」があるんですけど、たぶん同じジャンルなんですよ。その中で、過去の曲より今のほうがいいと思ってくれる人がひとりでも増えるように書けたらいいですよね」

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